tataraのブログ
木材塗装におけるtatara 撥水セラミックシリーズの活用例
「塗装技術」2019.10月号 P81〜88ページに掲載されました「木材塗装におけるtatara 撥水セラミックシリーズの活用例」と題して、この塗料の開発経緯と10例にわたる活用例をまとめさせていただきました。
9種類の木材用クリアー塗料を現場ではどのような考え方のもとに使い分け施工されているのか?
これまで4年間の実績をもとにまとめております。
まだまだ、充分ではありませんがご活用の際の一助にご覧いただければと思います。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
tatara 撥水セラミックシリーズは、いわゆる一般的に“ガラス塗料”と呼ばれておりセラミック高分子を特殊技術により木材に奥深く浸透し乾燥硬化する塗料である。この塗料の開発には徳永家具工房の木材に対する情熱から生まれた塗料といっても過言ではない。徳永家具工房における開発の過程について述べると、
杉を鉋で仕上げて家具や様々なインテリアに使おうとするには超えなければならない大きな問題がある。
一つは杉をスカッと削れる鉋とその技術を持つこと。もう一つは柔らかい杉を汚れや傷からまもる塗料を見つけることである。
鉋の方は様々な願いを形にしてくれています。塗料は頭の痛い大きな問題でした。できれば天然由来の無害なもので、木の表情を殺さないオイル系のものが好ましいと思うのですが、オイルは例えばテーブルの天板に使った場合、輪ジミになるなど決して強い塗料だとは思えない。
これまで仕上げにはオイルや自家製荏胡麻ワックス、漆などを使っていた。椅子など水に触れない家具にはオイルは適しているが、テーブルや床などはどうしても汚れがつき、シミになり、半年後には作った時の面影もないほどの味になっていた。 杉に適した塗料を求めて市販のシリコン塗料やガラス塗料を試していた頃、現在の塗料を開発した。塗料は、粘性は低く、浸透性の高い透明な液体は木にどんどん染み込み、オイル仕上げのような使い方で、乾くと見た目にはほとんど“木”そのものなのですが、水を通さない。
主な成分はシリコンで溶剤もアルコール系のものも使っており、食品安全基準をクリアーしている。木に使用した場合、浸透して水分や汚れをシャットアウトし、表面は木のままという理想的な塗料といっても過言ではない。この性質を利用し、木に浸透させる塗料として、以後様々な特徴をもったものが作り出されました。
より浸透性が高く、乾くと木の硬度が増すタイプのもの。天然オイルと合わせ、欅などの硬い材質のものに対してしっとりとした艶を出せるタイプ。外部用に紫外線防止効果のあるタイプのもの。
それでは実際日常生活に使ってみてどうなのだろうかと、これは徳永氏自身、自宅で試した報告である。
松のテーブル「使い始めて15年になるのですが、オイル仕上げの表面はどう贔屓目に見ても、きれいとは言い難いものでした。オイルは様々な汚れがつきやすく、固まっても塗膜は柔らかく、水や熱には弱いものである。電気鉋で表面を削り取り、手鉋で仕上げた後、今回開発した撥水セラミック塗料を塗装し普段通りに使っている。
まず、手触りがサラサラで気持ちよく、油やしょうゆ汚れなど、しばらくしてから拭いてもきれいに拭き取れ、跡が残らない。塗料がかかっている感じがほとんどなく、木の色は自然のままに、黄色から徐々に赤みが増してきている。
徳永家具工房の塗料は、塗料の専門家に“木”の本質を知ってもらうことで生まれた塗料である。何といっても私にとっていちばんの収穫は、杉が使える家具として自信を持ってデビューできたこと。そして今までのオイル仕上げの不安が解消したことである。
木に対する素晴らしい特性を備えたこの塗料は、出来て間のない新しいもので様々な使い方があると思います。それを見つけ出すことは木に携わる者のこれからの課題として、多くの人々と共にかかわって行きたい魅力のある作業だと思っている。」
この塗料の特徴を改めて整理すると、
-
セラミック高分子が特殊技術により木材に奥深く浸透し乾燥硬化する。
-
木部組織と結合して木の寿命と強度を大幅に向上させる。
-
撥水性と防汚性に優れ表面硬度もアップする。
-
浸透性抜群で塗りやすく、美しく、深みにある仕上がりになる。
-
木材のぬくもりと呼吸性を維持し、水は通さず湿気のみ通す。
セラミック高分子の耐久性・難燃性に加え、塗装後の表面の拭き取り仕上げにより、表面に塗膜を形成しない木肌を生かす仕上がり感、素人でも簡単にムラなく仕上がる作業性など、これまでにない理想的な木材仕上塗料である。木材以外にも、紙・竹・革・布などの繊維系素材、またモルタル・漆喰・金属など浸透・密着の良い素材にも効果的に利用できると考えている。
現在目的にあわせて9種類製品化している。
-
撥水セラミックマルチ
-
撥水セラミックHD
-
撥水セラミックオイル
-
撥水セラミックヤケ止め屋内用
-
撥水セラミックヤケ止め屋外用
-
撥水無機ウッド(主に建築用)
-
撥水無機ウッド屋内ヤケ止め(主に建築用)
-
撥水無機ウッド屋外ヤケ止め(主に建築用)
-
輪ジミ・アク止め(下地材)
活用例のなかですべてを網羅できそうにないが、撥水セラミックが主に使用されている。後発の販売になる撥水無機ウッドは汎用タイプで大量に使用されることを想定して主に建築用に対応したタイプである。
この目的ごとに調合された9つのクリアー各塗材の性能・度合い・特質をどこまで明確に施主・現場側に伝えきれるかが大きなポイントといえる。このなかで木材の表面の輪ジミ防止を目的に開発された輪ジミ・アク止め塗料は、木材に含まれる水溶性のポリフェノール成分(主にタンニン)を溶出しないよう木材内部に固定化する塗料で、tatara 撥水セラミックシリーズの各タイプとの併用が可能である。
活用例の前に先般申し上げたようにtatara 撥水セラミックシリーズの塗料は、木材に全て浸透し塗膜を形成しないこと、木地そのままの表情を生かす塗料であり見栄え良く欠点を補修するための塗料ではない。木地の仕上がりが特に大事であり、何のために塗装するのかという目的が大切である。
本来、木が持っている美しい木目をそのままに汚れ・シミがつかないように使いたいとか、木の肌ざわり・芳香をそのままに家具や建築に利用したいとか、厳しい屋外条件でもカビ・腐朽に負けない耐久木にしたいとか、美しい自然の経年変化を楽しみたいといった具体的な目的に応える塗料として開発されている。したがって“塗料”が主役ではなく、どこまでも“木“を主役にするための塗料といって良い。
塗装技術としては、塗料を均等に木材に浸み込ませることが重要であり “適量の塗布量”および“拭き取り作業”を間違えなければ一般ユーザーにもとても扱いやすいものである。しかし反面、ご承知の通り、木材には針葉樹・広葉樹、環孔材・散孔材・放射孔材、木目柄・色調・脂分・密度・成分など様々で、それに従って挙動・性状も様々なので判断に悩むこともしばしばあるのは確かである。
それでは、以下10例の活用例を提示する。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<活用例①ヒノキの芳香・肌ざわり・保温・吸湿・癒し効果を引き出すお風呂周り編>
古より紙と木の文化といわれる日本建築のなかで、ヒノキ風呂の価値は衰えることはない。海外の渡航者が増える風潮にあっては人気のスポットとして増加傾向にある。しかし、石やタイルに比較して経年変化が早いこと、カビ・アク・日焼けによるメンテナンスコストがかかり安易に採用し難い現状がある。tataraでは、風呂床の“スギ材すのこ”が都合6年カビ・腐朽が起きないことを根拠に、キッチン・水回りの木材への採用は随分と進んできた。風呂内の羽目板・すのこ・桶・座椅子・木製窓枠など、工務店から信頼を積み重ねつつある。個人住宅から公共の温浴施設への採用も徐々に広がり始めている。
【ハーフユニットバスヒノキ天井・壁/画像1】
<活用例②テーブル・カウンター編>
夢の新居に一枚板の無垢材テーブルを使いたいと、無垢板専門サイトが繁盛するなど家具業界にも工業生産品から一歩踏み出したものにも人気が出てくる時代のなかで、その仕上げ塗装はウレタン艶消しが主流である。リスクの少ない塗膜系塗装から消費者は肌ざわりのよいオイル系の質感重視の塗装へ移行するものの、輪ジミ・汚れ等によってせっかくの天板も一年経たないうちに美観的に台無しになってしまうという声も多い。自然のものだから仕方がないと半ば諦め気味の面も否定できないが、スギ・ヒノキなどの針葉樹には撥水セラミック、オーク・ウォールナットなどの広葉樹には、輪ジミアク止め下地材+撥水セラミックの併用でその問題の多くを克服できるのである。
なかでも、高級寿司店のヒノキ無垢板カウンターへの塗工には質感・メンテナンス性において目を見張るものがある。
<活用例③スギ材の椅子編>
徳永家具工房では、すべてこの撥水セラミックで仕上げている。近年、国産材スギ・ヒノキの利用促進が進められているなかで、従来より家具は広葉樹が主流で、建材・建具には針葉樹という風潮であった。テーブル・椅子に吉野杉を使っていくプロジェクトでは、いちばんの課題が最終仕上げの問題であった。やわらかい木肌をヒノキ程度まで木質強化できたこと、木材の呼吸による芳香・癒し効果、また防汚性能向上により付加価値を増し自然な経年変化をすることに加え、簡単なメンテナンスで、これまでのウレタン・オイル塗装の問題を克服できたことである。デザインされて30年近いベストセラー『たためる椅子』/画像5、2018年LEXUS TAKUMI PROJECT優秀作品/画像6、共に杉材を使った椅子の活用例である。
<活用例④箱物・造作家具編>
家具の延長の箱物は、無垢材・突板・金属・ガラス・合成樹脂化粧板など、多素材を組合せして完成する箱物は、その大きさゆえに現場施工・運搬移動・管理コストも無視できない。塗装設備のない工場内もしくは現場で、短時間で容易に、しかもムラなく仕上げ・メンテナンスできるハンドリングは殊のほか重要なのではないかと考えられる。頻繁に接触し汚れやすい部位は、撥水セラミック、垂直部分の側板・内部の広い面積には撥水無機ウッドを使いコストダウンするなど工夫したり、什器内に塗装の臭気が籠らないという隠れたメリットもある。
ちなみに、ヒノキの下駄箱/画像7では、半屋外に設置することもあり防水・防汚・防カビ・ヤケ止めを目的に、輪ジミ・アク止め下地+撥水無機ウッド屋外ヤケ止めを併用している。
【(株)松崎 ヒノキ下駄箱/画像7】
<活用例⑤木製カトラリー編>
食品安全基準をクリアしている塗料ということもあり木製カトラリーには多く使われている。ただし、ウレタンのような強固な塗膜をつくらないので、使用目的・硬化状態の見極め、色抜けの対処、日常の洗浄による表面仕上げのダメージ、メンテナンスへの配慮が不可欠である。制作現場では、撥水セラミックシリーズと他塗料との併用も様々に試されている。
画像8の檜のお猪口は、檜の香り、やわらかい木肌、保温性などを目的に撥水セラミックを丁寧に浸透させている。
【檜のお猪口/画像8】
<活用例⑥建築屋内の床・階段・建具編>
屋内空間でのフローリング・階段・壁面等の広範囲の塗装には、先に詳述しているように針葉樹と広葉樹の対処方法や撥水セラミックと撥水無機ウッドの使い分けができれば、ほとんどの問題に対処できると考えている。とくに現場での作業性は大きなメリットである。 特殊なところでは、木肌の白いヒノキ・メープルのフローリングは紫外線により室内でも早々に黄色っぽくなってしまいがちなので、撥水セラミックヤケ止め屋内用・撥水無機ウッド屋内ヤケ止めが効果を発揮できる場所でもある。ウォールナット材・チーク材などの濃色材には、撥水セラミックオイルでしっとり感・重厚感を出すこともできる。
<活用例⑦建築屋外の羽目板・軒天・木製建具>
近年、幼稚園・学校施設にスギ・ヒノキを積極的に使われるようになって久しいが、まず安全性、その次に耐久性とコスト、またメンテナンス性が要求されるケースが一般的である。
屋外用途として、画像10/軒天には撥水セラミックヤケ止め屋外用、画像11/ヒノキ建具・スギ板には撥水無機ウッド屋外ヤケ止めと、コスト別に二種類を使い分けているが、紫外線・風雨・湿気・寒暖差による灰化は避けられないというのが実情である。
古民家改修でスギ・ヒノキに塗布した撥水無機ウッド屋外ヤケ止めは約2年間日焼けを抑制しているとはいうものの、雨風が激しく当たる部位については徐々に木色が抜けてきていて灰化が徐々に進行している。木色抑制期間でいえば凡そ3年程度といえるが、カビ・シミなく綺麗なシルバーグレーの経年変化であれば、それ以上の期間を許容してはどうかとも考えている。
画像12/徳永家具工房の東側壁面にt20杉板を施工し、ヤケ止めを使わずあえて撥水セラミックのみをたっぷり一回塗りで経年観察を進めている。カビ・シミのない美しいシルバーグレーを目指しているのである。経年変化を経た表面の灰化層は木材地肌を守る保護層としての働きと捉えているが、これを劣化層と捉えればメンテナンスという展開になってしまう。この灰化層を肯定的に捉えれば屋外羽目板仕上げの価値観も随分変容するのではないかと・・・。ツヤ感のあるシルバーグレーが美しい、自然と感じるのか?反対に単に劣化していると捉えるのか?が、価値判断のポイントになると思われる。
ちなみに、画像12/スギ材壁面はひと夏を超えて表面の木色はグレーに変わりつつあるが、シミ・カビ・腐朽などは一切なくツヤ感が増してきている。
【徳永家具工房スギ壁面/画像12】
撥水シリーズで経年変化した木材を仮に3年でメンテナンスする場合、表面の灰化部分は高圧洗浄で容易に洗い流して乾燥させると、うづくり状態の魅力的な表情をみせてくれる。洗浄後の木地にはまだ浸透したガラス層が残っているため、これに撥水セラミックもしくは撥水無機ウッド各種を改めて浸透させるという工程になる。こまめにメンテしてもいいし、しっかり時間をかけて経年変化させてからでも良い。ただし、シミ・カビ・腐朽のないことが必須条件といえる。今後の大きな研究課題でもある。
<活用例⑧寺社・仏閣・文化財保存>
丸4年目を迎える三輪明神の画像12/檜原神社檜三門には、撥水セラミックHDを下地に撥水セラミックヤケ止め屋外用を塗工した。表面木肌の色調はずいぶんと灰化が進んできた。ただカビ・シミによる美観は保っておりそれなりの効果はあったと捉えるべきかと考えている。
下地材として使った撥水セラミックHDを輪ジミ・アク止めにしていたら、もう少し木肌の灰化は抑制できただろうか?できることなら、5年目くらいに表面を洗浄して下地の状態を調査したいものである。(神主にご相談しないといけないので難題ではあるが・・・)
画像13/ヒノキの太鼓橋は3回目の夏を経過しまだまだ美しい状態と言える。避けることのできない木材の経年変化をいかに自然に美しく、かつ腐朽しないものにできるかどうかが重要である。奈良や京都の木造建築は枯れた木材の表情が「わび・さび」の日本的価値観として自然に受け入れられていることを思うと、今後、文化財保護の仕上げ塗料としても有用なものではないかと考えている。